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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

そんな事情が判ると、千枝子はしまったと思った。何にも知らずにヤトナになってしまった自分をうかつだと思った。

しかし千枝子は幸いに今日までそんなことはなく、無事な夜を過して来た。

ところが、今年はじめて、

「お泊りやすか」

と、おかみに口説かれたのだ。

「あて、かなわんのどっせ、お母さん、かんにんどっせ」

千枝子は婉曲に断った。木屋町へはいってからも、千枝子は巧く京言葉が使えなかったが、この際は京言葉の方が柔く断れると思ったので、一生懸命使った。

おかみは執拗に口説いたが、千枝子が「かんにんどっせ」で突っ張ったので、それ以上強制も出来ず、二階の客へ謝りに行った。

そして降りて来ると、

「お客さんには今わてがよう謝っといたさかい、ほな、お客さんに挨拶だけしてお帰りやす」

「おおきに、お母さん、かんにんどっせ」

千枝子はほっとして二階へ挨拶に上って行ったが、客はいつの間にか部屋を変えていた。

「こちらどす」

おかみに教えられて、洋室になっている部屋のドアをひらいてはいると、客はもうベッドの中へ一人もぐり込んでいて、千枝子の顔を見ると、

「君、そこのマッチ取ってくれ」