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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

黙殺してしまうと、サバサバした。

「――好きでもない女に会いに行くのは不潔だ」

家の環境がたまらなくて、毎日外を遊び歩いている寂しさが、ふと好きでもない女の愛情にすがろうとしていた自分を、ちょろいぞと思った。だから、いつも行動を決しかねる時に振ってみるサイコロが、会いに行くなと決めてくれたことが、ふとうれしかった。

一人歩きの自由さを、生暖い春風がふと快よくゆすぶってくれるようだった。

しかし、木屋町通りを横切ると、鶴雄の眉はふと曇った、サイコロは西へ行けと教えてくれたが、しかしそれ以上の行動の見当がまるでつかぬのだ。

今日一日何を成すべきか。それが判らない。哀れな現代の学生の病弊だろうか。たとえば、鶴雄のズボンには十円紙幣が一枚はいっている。これが今日の全財産だ。しかし、これをいかに有効に使うべきか、それがまるっきり判らぬのだ。

それでも鶴雄は歩いて行く。

四条通りはまるで絵具箱をひっくり返したような、眩しい色彩の洪水だった。

去年の八月まで灰色の一色に閉ざされていたことが、まるで嘘のようなはなやかさである。

敗戦国に焼け残った唯一の大都市だといってしまえば、それまでだが、しかし、この浮ついた、はなやかさは何か気ちがい染みている。