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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

女中が来ると、

「お客様に紅茶とチョコレートを差し上げて頂戴! ――兄さんは……?」

「お留守どす」

「姉さんもまだでしょう……?」

「はい」

「幹男は……?」

幹男というのは虎吉の一人息子で、中学校四年生である。

「坊っちゃまは……」

と、女中はなぜか赧くなって、

「お出掛けどす」

「ふーん。じゃ、誰もいないのね」

宮子は鏡の中でにやりと薄気味わるく笑って、そして笑ったままの唇へ紅を塗りながら、

「――お風呂沸かして頂戴!」

「はい」

「大急ぎで……」

「はい」

女中が去ろうとすると、宮子は、

「ちょっと!」

と鋭く呼びとめて、

「――あんた、お腹大きいんじゃない……?」

と、じっと女中の腹へ視線を注いだ。

「はあ、いいえ……」

女中は眼の中まで赧くなった。

「だったらいいけど……」

「…………」

女中は何か言いたそうにもじもじしていたが、やがてだまって出て行った。

宮子は念入りに化粧を済ませると、鏡台の抽出から、とって置きのコティの香水を取出して、胸や耳のうしろへ振りかけて、そして再び応接室へ戻って来た。

「お待たせしました」

そう言いながら、椅子に腰を掛けると、宮子はいきなり両手を頭のうしろで組んで、両足をすっと伸ばした、二の腕が白い。