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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
「なるほど、出たのか」
「ええ」
「宮子は何と言ったの……?」
「卑怯者! と言いました」
「なるほど、卑怯者か。あはは……」
その「卑怯者」という宮子の言葉を背中に聴きながら、浴室を出ると、鶴雄は脱衣場で素早く洋服を着た。
脱衣場の窓の外はもうたそがれて、庭の椿の花が夕闇の中にぽっかりほの白く泛んでいた。
それをちらと見た途端、鶴雄はふと鈴子のことが頭に泛んだというのである。
夕闇の中の椿の花の清楚な白さが、鈴子を想い出させたのであろうか。
淫蕩的な宮子の爛熟した肉体を見た反動として、鈴子のういういしい可憐さが、ふとなつかしくなったのであろうか。
鶴雄は急に先斗町へ帰りたくなった。鈴子のいる先斗町へ……。先斗町の雰囲気は鶴雄にとっては堪え切れぬものだったが、しかしわずかに鈴子がいることで、鶴雄のあえかな郷愁をそそった。
黄昏のせいかも知れない。
脱衣場を出ると、鶴雄は宮子を浴室へ置き去りにして、廊下伝いに応接室へ帽子を取りに行った。
ところが、ドアをひらくと、応接室の中には意外な人物が坐っていた。
七
「あ、君は……」
応接室にいた女の顔を見て、鶴雄は思わず声が出た。