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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「いやよ、お世辞なんかいって、あなたらしくないわ」

「いや、お世辞じゃないよ。――ところで、望月のやつは思わずどきんとしたまでは判ったが、それからどうなったの……?」

「それからが問題なのよ」

と、弓子は声を弾ませた。

鶴雄はちょっと緊張した。

「――どきんとして、まず手を離したのよ」

「それから……?」

「望月のやつ、ばつの悪そうに暫らくもじもじしていたけど、いきなり、じゃまたあとで……と言って、あたしの部屋を出て行ったのよ」

「あはは……。じゃまたあとで……はよかったね」

「どうせ、あたしの秘密握っているので、いつでも誘惑する機会はあると思ったんでしょうね」

「ふーん。ちょっと薄気味悪いね」

と、鶴雄が言うと弓子は、

「なアに平気よ」

と、澄ましていた。

「で、望月は部屋を出て行って、それきり……?」

「いいえ、それからが問題なのよ」

「一難去ってまた……?」

「いいえ、その逆よ」

と、弓子はにやりと笑った。

「望月に電話が掛って来たのよ」

「誰から……」

「小郷虎吉のワイフ、真紀子夫人……」

「ああ」

なるほどと、鶴雄は「そろばん屋」で電話を借りていた女のことを思い出した。