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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「はア、おおけに……」

曖昧に言った。

三好はそんな君勇を見て、

「いやお茶屋へも通さんと、お前を連れて行くのは無理やいうことは判ってるが……」

と寂しそうに自嘲しながら、

「――しかし、ごらんの通りすっかり落ちぶれてしもて、お茶屋へ行く金もない。というて、折角お前に会うて立ち話だけで別れるいうのも、未練たらしい言い方やが、心残りや。どや、おれの一生のたのみや、せめてこのあたりで、お茶でもつき合うてくれへんか」

「へえ、おおーけに」

君勇は同じ返辞をしていた。

「恥を言うようやが、今二十円しか金がない。寺町の闇市で飴を売ったもうけや。この金使てしもたら、明日の飯も喰えん。ま、おれにとっては、精一杯の散財や」

三好の声はポソポソと不景気だった。

「――実は、今夜は何やらしらんが、昔がなつかしゅうてな、何ということもなしに、足が先斗町の方へ向いて、先刻から路地の中を行ったり来たりして、せめて一眼でもお前の姿を見たいと思てた矢先、うまいぐあいにこんなところで会えたというわけやが、これも何ぞの因縁やろ、二度とはたのまん今夜だけつき合うてくれ」

恥も何もさらけ出して、頭を下げている三好の眼は、ふと中年男の最後の情熱の物狂おしさに燃えているようだった。