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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
「いやか」
三好の声は急に凄んだ。何かただならぬその調子は、何か狂気じみていた。
「あ、こんなお方やなかったのに……」
と君勇はそんな三好をあわれむ前に、何か気味の悪いものがどきんと胸に来た。
「いやなことおへん」
と、君勇はあわてて言った。
「――でも今お貰いが掛ってせかれてまっさかい、今夜のとこはかんにんしとくれやす。こんどまたお伴させて貰います」
「そうか」
三好はもうしょんぼりした声になった。
「――やっぱし頼む方が無理やった。あはは……」
三好は口を歪めて笑うと、いきなり君勇に背を向けて、ひとり立ち去って行った。
「あ……」
何か心に残って、君勇は呼びとめようとしたが、思い直して、
「――さいなら。お気をつけて……」
三好の寂しい後姿に声を送ると、そのまま先斗町の路地の中へはいって行った。
何か後味が悪かった。
「ああ、芸者ていやな商売や」
君勇はやがて桔梗家の玄関へ、
「おおーけに。今晩は……」
と、はいって行ったが、その時うしろから一つの影が自分を尾行して来ていることには無論気がつかなかった。
まして、その人影が君勇と別れて立ち去った筈の、三好だとは、気づく由もなかった。