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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

小郷の部屋に泊らずに帰れるのが、うれしいのだろう。

が、鈴子よりも、鶴雄の方がうれしかった。

「鈴子は無事に帰った。鈴子は失われなかった」

と、思うと、鶴雄はうきうきとして、大声を張りあげて、

「紅燃ゆる丘の花

早緑におう岸の色

都の花にうそぶけば

月こそかかれ吉田山」

と、寮歌を歌い出した。

すると、二階の部屋から鶴雄の歌について小声で歌い出した女の声がきこえて来た。

君勇の声だった。

酔っぱらった声だが、それだけ一層、いつもの君勇に似ぬ悲しいばかりに寂しそうな声だった。

鶴雄はおやっと思った。

「君勇は小郷の部屋に泊っているのか。――しかし、なぜそんなことをするんだろう」

鶴雄は改めて、そのことを考えた。

「――なぜ、鈴子を追い出して、その代りに泊ったりするんだろう」

君勇が芸者の意地から、小郷という所謂「上客」を、鈴子から奪った――と、一応考えられた。

いや、むしろ、君勇と小郷とはもとから何かあったのを、小郷の気持が鈴子に傾いたので意地と嫉妬から、むりに奪いかえしたとも考えられた。

だから、鈴子を撲って出て行けと言ったのだろう。

そう思うと、何もかも釈然としそうだったが、