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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「はア」

とにかく鶴雄は坐った。

宮子は女中にビールをいいつけた。

「ビール……?」

鶴雄は美しい眉を曇らせた。

「――僕はビールなんか飲めませんよ、だいいち、僕はビールを飲みにこんな所へ来たのじゃない!」

「判ってるわよ、あの人に会いにでしょう」

宮子は蓮ッ葉に言いながら、何かむっとこみ上げて来る嫉妬を感じて、

「――あんたが飲まなきゃ、あたしが飲むわよ」

「女だてらに……」

と、言おうとしたが、さすがに鶴雄はそれはよした。

やがて、ビールが運ばれて来た。

「いかが……」

うっとりした眼で、鶴雄の睫毛の長い眼を見ながら、宮子はビールの瓶を持った。

「僕は飲みません」

「あら、どうして……」

「飲まないと言ったら、飲まない!」

鶴雄は色町に育ったせいか言葉づかいの柔い青年だったが、思わず声が荒くなった。宮子が憎むべき小郷の妹だということが頭にあるからだろうか、いや、それよりも――。

「ビールなんかどうして飲みたいんです。日本には、いま、ビールどころか、米も芋も食べられない人間がどれだけいるか知っていますか」

「知ってるわよ」

「知っていて、よくビールが、しかも白昼女だてらに飲めますね」