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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
しかし、どうして、わざわざ返して来てくれたんですか」
「先生のお名刺がはいっていましたから……」
「それだけで……?」
「ええ」
と、言いながら、しかし、弓子は赧くなった。
そして、その赧くなった顔は、小田の前だけならまだしも、鶴雄には見られたくなかった。
なぜ赧くなったのだろう。小田の名刺がはいっていたからにはちがいないが、しかし、弓子は小田という作家の小説を愛読しているわけでも、また作家だからといって、とくに尊敬しているわけでもなかった。
実は、その名刺の裏に、
「……梶鶴雄、美貌の三高生。この実在の人物を主人公にすること」
という小田のメモがはいっていたのだ。
弓子はそれを見ると、
「じゃ、この作家は梶鶴雄さんの知り合いだったのか」
と、ふとなつかしかった。
そのなつかしさが、いったん掏ったものを小田に返しに行くという気を弓子に起させたのである。
一つには、小田のところへ行けば、もしかしたら、鶴雄の消息がきけるだろうという、淡いのぞみもないわけではなかった。
しかし、そんな気持は、恥かしくて、口がくさっても云えなかった……。
三
「返しに来なくてもいいのに……」