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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
二
「だめだ!」
「なんぜどす……」
と、君勇がきき返すと、鶴雄はふとためらったが、やがて睫毛の長い眼で、ちらと睨みつけるように君勇の横顔を見ると、
「女に会いに行くんだ」
それにしては随分野暮ったい調子で、ずばりと言って、すたすた歩き出した。
二
「えっ……?」
と、君勇は立ち停った。
鶴雄が女に会いに行くなんて、そんなばかな……と、唇を噛んだ。
色町で育ったけれど、いや、それだからこそ一層、鶴雄は品行が良かった。はにかみ屋のせいか、自尊心が強いのか、自分から女に話し掛けるようなことはなく、女ぎらいで通っていた。――もっとも二十歳の鶴雄にわざわざ「女ぎらい」という形容が大袈裟だというなら、純潔といいかえても良い。
環境が環境だし、それに美貌だし、人一倍誘惑が多い筈だが、鶴雄は固く身を守って来た。女の肌を知らず、甘い囁きも知らぬ純潔さが、しかし爛れ切った玄人女にとっては、何か焦燥のような魅力であった。
ところが、鶴雄が女に会いに行く、誰か女を愛している……。
自分より先に鶴雄を奪ってしまった女がいるのかと思うと、君勇は取りかえしのつかぬ想いに重く沈んで、もう鶴雄に随いて行くことも忘れて、ぽかんと後姿を見送っていた。