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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
「あ、待って……」
と、呼びとめようとした時は、もう襖が閉っていた。
さすがに、弓子は追って行く勇気はなかった。しかし、甘い悔恨は残った。
「――風のようにはいって来て、風のように出て行ったわ。まるで風みたようなひとね。いいわ、あたし風邪引いてやるから」
ごろりと仰のけに倒れて、天井を見ていると、急に襖がひらいた。
弓子はあわてて飛び起きた。鶴雄が戻って来たと思ったのだ。
しかし、はいって来たのは望月三郎だった。
「だれ……?」
弓子は思わず云った。
「いや、そう心配なさらんでもいい。べつに警察の者だというわけでもないから」
望月はにやにやして、弓子の前へズボンの折目を気にしながら、坐った。
「何か御用ですの……?」
弓子は薄気味わるかった。
「用ってわけではないが、隣に泊っているよしみで、一寸顔を出したわけですよ」
「無断で、女ひとりの部屋へはいって来ていいんですか。ダブルの洋服が泣きますよ」
「しかし、無断でひとの懐中を掏るひともいますからね、赤いブラウスが泣きますよ」
弓子ははっとした。が、弱みを見せたくなかった。いや見せてはいけない所だ。
「聴いたのね」