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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
その隙に鶴雄はさっさと路地を出て行ったが、四条の電車通りを横切って、もとの「矢尾政」今は「東華菜館」という中華料理店になっている洋風の建物の前まで来ると、急に立ち停った。
四条通りを東へ行くか、西へ行くか、ふと迷ったのだ。
「女に会いに行くんだ」
と、鶴雄が君勇に言ったのは、君勇をまくための咄嗟の言い逃れだったが、しかしまるっきり嘘でもなかった。
東へ行けば円山公園、そこでは矢部田鶴子が、鶴雄の来るのを首を長くして待っている筈だ。
十日ほど前まで鶴雄は三条の英会話講習会へ、月・水・金の夜の一時間、会話の練習に通っていた。講習生の中には十人ばかりの若い女もいたが、田鶴子はその中で一番美しく発音も巧かった。
彼女は出版会社のタイピストをしており、ある夜、その出版会社から出ている雑誌を鶴雄に貸してくれたことが切っかけで、講習会場で顔を合わすと、時どき話し合うようになった。お互いの名の鶴の字のあることも、ちょっとした偶然として、話題になった。
しかし、やがて講習会が済むと、もう顔を合わす機会もなく、鶴雄は簡単に忘れてしまった。
ところが、田鶴子はいつの間にどこで鶴雄の住所を調べたのか、昨日いきなり速達の手紙をよこしたのだ。