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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
の訳者の桑山竹夫が、
「つまり、ジュリアン・ソレルかね。いいじゃないか。ジュリアン・ソレルにしてみるのも……」
と言った。
ジュリアン・ソレルというのは、「赤と黒」の主人公で、美貌の少年である。貧しい家に育ったが、天才的に記憶力がよく、ラテン語を自由自在に操る点を買われて、町長のレナール家に家庭教師として住み込んだところ、レナール夫人と恋愛関係に陥ったので、追われて神学校にはいり、のち伯爵家の秘書に雇われると、伯爵の令嬢のマチルドを誘惑し、最後に嫉妬からレナール夫人をピストルで射ったために、死刑になったという男である。
その生涯を表面的に観察すればいかにも芳しくない人物だが、しかし、貧しく卑しい育ちでありながら、比類なき自尊心の強さと、精神の高貴さと、つねに自分以外の何ものをも頼らず信ぜず、ギリギリ一杯に生きるという情熱の激しさで、いかなる青年も真似ることの出来ない第一級の人物であったから、かえって多くの模倣者即ちソレリアンを生んだ。
それほど、この「赤と黒」の主人公は影響力の強い人物であった。
鶴雄もジュリアン・ソレルを自分に擬し、ジュリアンのような生き方に憧れることにかけては、人後に落ちなかった。