轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
日本左衛門様、日本左衛門様、恋しい日本左衛門さま、恋、恋、恋、恋、恋、恋、恋。
――恋という字が虫のようにならびました。
ビリビリとその一枚を破って捨てると、筆の端を白い頬へ突いて、暫く首を傾げておりましたが、やがて思い切った様子に、こんどはこんな風に書いてゆく。
甲斐、鼻寺以来でございますね、日本左衛門様。
どうしたのでしょう、私は怖ろしいはずのあなたが、あれ以来、何だか忘れ得ないで悩んでおります。
あの鼻寺の本堂で、私に囁いたおことばが嘘でなければ、お蝶はほんとに救われますけれど、もしやあれは当座の嘘ではなかろうか、それとも真実のおことばかしら、と娘心は、他愛もなく、いまだに判断がつきませぬ。
お留守のあとへ参って、心残りの一筆、あわれとお読み下さいませ。またのお訪ねの折に、それが真ならば久しぶりの笑顔を、また、それが嘘ならば、お蝶の命を召されるなり、何と遊ばされるなり、御意のままに。
こう書き流して自身の名を記す所へ、文字の代りに、一筆描きに一羽の蝶の印を書きかけていますと、納屋の小窓の外へ、誰か人でも近づいて来たらしい気配に、ハッとしながら筆を置いて、側の行燈を吹き消しました。