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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「どこだ、どこだ」
次郎はいよいよ血眼となって、
「――お嬢さまア、お嬢さまア」
遂には、波にひびくその絶叫も、涙ッぽい訴えと変って、刻々と暗のこくなる海のいろに、思わず深い溜息をもらしている。
すると――向うで、
「おのしは、次郎さんでねえか」
と、磯の石が呼びました。
磯の石が声をかけるはずはないが、うす暗い海辺にかがんでいたひとりの海女が、そこを立って歩きだすまでは、一個の磯の石としか次郎の目には見えなかったので――
「あ……」
驚いて近づいてゆくと、ふだんこの辺でよく顔を合せている海女です。
「おばさん、教えてくンないか」
次郎の問いは唐突です。
「おめえ、それで飛んできなしたか」
「居なくなッちゃッたんだよ、お嬢さまが。――おばさん、おいらのうちの月江様を知ってんなら、教えてくんなよ」
「大変だぞ、おめえ」
「えッ」
次郎はもう飛び立ちそうな様子をして、
「大変て、ど、どうしたンだい」
「悪いやつに追われて、魚見小屋の中へ連れこまれて行きなしたようだ」
「見ていたのか、おばさんは」
「札つきの悪者ばかりが、のッそりのッそり、藤屋のお客さんのあとをつけて行くので、なんか悪いことがなけりゃあいいがと、さッきからここで案じていたところ……おめえよく来なした、早く行って見てあげるといい」