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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「なんじゃ、そちとしたことが。――おりん、仕舞の衣裳と舞扇をもて」
取上げずにいいつけましたが、
「おおそれ。いつぞや手に入れた般若の仮面、ありゃ、出目洞白の名作じゃ、奥庭の石神堂に納めてあるが、あれを取りよせて仮面披露に一さし舞うたらどうじゃ」
「なるほど、御趣向!」
と、郷士たちは、手を打って、
「あれをつけて、お美しい女性の仮面披露とは思いつき。ぜひ、所望でござる」
「たれぞあの洞白の仮面を、奥の御神前から取出して来い」
と、月江がしきりと拒みぬくのを、そうして機嫌を直そうと御隠家様がいなやをいわせぬお声がかり。
「はっ」
と、郷士のひとりが立つ。
すると、それまで酒の酌ばかりしていて、足にしびれを切らしていた高麗村の次郎が、
「はい! 私がすぐに!」
人の先を越してバラバラと、心得顔に廊下の外へ駆け出しました。
所々、ほの暗い網雪洞のついている六間廊下を、面白そうにドンドン駆け出して行った次郎。
かねて、奥庭の石神堂の内部へ出るには、千蛾老人の部屋から三ツ目のお書物納戸から、地底を抜ける隠し道があるのをよく知っておりますので、そこの道がくしを撥ね返し、真ッくらな間道を、スタスタと一筋に進んでゆく。