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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「いったい、物はなんですか」

「珊瑚でございます」

「というと、珠ですね。かんざし、おじめ、どちらでございますな?」

「枝だろうと思いますが」

「おや、それじゃお嬢さん、お話しになりますまいよ」

娘はまッ赤になってうつ向いてしまう。白い襟脚がのびるだけのびて、頭巾の端がタラリとなやましげに――。

「まるで師宣の絵じゃあないか」

買物にそそられない新助は、そう考えて、しきりと女の姿を見入っていたが、さて、これを一枚の師宣として見るだんになると、帯や着物の調子はよいとして、また紫ちりめんをかぶったのも悪くないとしても、ほかに難がないだろうか。どうも何か苦情をつけたい。

どこが――というとさて困るが、横顔になってみると、あまり鼻すじがとおり過ぎて、男には一種の強迫感を与えそうだし、まつ毛の濃さも目化粧したほどきわ立って、あの浮世絵のやわらかい線や色あいとはやや遠い。それに、もういちど立たせて見たなら、女にしては、背丈の勝ち過ぎるきらいがありはしまいか。

何しても、美人にはちがいないが、江戸の系統といえず、上方風ではなおさらなし、女ばかり常に見なれている新助の目にも、この娘の縹緻というものは、妙に不可思議な――難をかぞえながら、それでいて、強い蠱惑にくるまれそうです。