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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
説きおくれましたがこの二人の人間は、すなわち道中師の伊兵衛とそして馬春堂先生であります。
九死に一生を得て、高麗村の御隠家様の屋敷を脱した先生と伊兵衛が、中仙道筋を歩き廻って、この川越に来合せたのは、あながち偶然なことではない。
ところでこの二人が、お粂を種にして、一狂言書いたには、なかなか面白い機関があって、その発端と顛末はこういう訳。
――まだ興行の中日の頃、千束の稲吉とその組の者とが見物のなかに紛れ込んで、お粂を刺殺する相談をしているところを、後ろのむしろの間からのぞいていた眼がありました。
今思い合せると、あれが、伊兵衛か馬春堂であったものと見える。
その翌日一本の手紙が楽屋のお粂に届きました。見ると馬春堂とあるので、江戸表にいた頃から気に食わないやつ、何をいって来たかと眉をしかめて読んでみると――です。
お前を殺そうと狙ッている者が、毎日小屋へまぎれ込んでいる。日本左衛門の手下千束の稲吉と五、六人の子分だ。わしと伊兵衛でそれとなく邪魔をしているが、お前の方でも気をつけるがいい。委細はそのうち。
頓首再拝
こんな調子に書いてある。
注告のしてが馬春堂なので、お粂も半信半疑でしたが、日本左衛門がという一点が何しろ気味わるく思われて、その日から人知れず衣裳の下にも真綿の肌着をきこみ、太夫の部屋から小屋