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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

すると、毎日同じ帳場で稼いでいる馬方らしい男が、ふふん、といったふうな銜え煙管で、

「よせやい、悪い事にかけては、名うてなおめえ達が、人並に胆をつぶしたなんていったッて、だれが真顔にうけるものか」

「ところが、その悪玉のおれ達が、キャッと悲鳴をあげて来たんだから話はすごいや」

「ヘエ、ほんとかい?」

「嘘だと思ったら、だれでもいい、この上の千魂塚まで行って見ねえ」

「そこに、何が居るッていうのか」

「女よ! しかも素敵に美しい」

「野郎、いよいよ人の退屈をなぐさみに来やがッたな」

「どうして、話は本筋だ、まあそう茶化さずに聞きねえッてことよ。――実はというと、こッちの襤褸も出るわけだが、どうせおれ達の根性は太陽様も御照覧だから、なにもかも言ってしまう。――今夜……と言ってもまだ宵の中、麓の立場からただ一人で、この小仏へかかった美い女があるので、はて変だと思いながら尾けてゆくと、やがて、千魂塚へ来て、その女が休んでいたと思いねえ」

「なるほど……」

「で、誰だって、煩悩を起すだろうじゃねえか。ましてや山だ、しかも夜半、おまけに相手は十八、九の美女と来ていやがる」

「もっと、悪党らしく話してしまえよ」