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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
そうまでいう女を、無碍に斬って立退くのは、少し無残な気がしないでもありませんが、
「いや、待ってはおられん」
突っ放しざま、金吾は、了戒の一刀を抜き打ちにと持ち直しました。
が、
その鯉口の切って走る前に、今の化粧下をそそいだ布が、金吾の顔にふわりと投げられたかと思うと、彼の五体は、力なくよろよろとお粂のささえる腕へもたれて来ました。
奥で妙な物音がしたものですから、
「太夫さん、まだですか」
外に立っていた使いの源七、格子を細目にあけて、首をつッこみますと、
「あ、源さん、すまないが四ツ角の駕政に行って、一挺急いでくるように、たのんで来ておくれでないか」
と、境のふすまから半身のぞませて、少し息をせいたお粂が、あわてて、はいって来そうな源七の足を止めました。
その顔色が、青隈をとったように青ざめていたのには、使いの源七は気がつかないで、
「じゃ、駕で飛ばして来てくれますか」
「アア、あとからすぐに行くからね」
「お願い申します。じゃあ私は、駕政へ声をかけて、一足お先に」
「ご苦労だったね」
馳けだしてゆく源七を見送ってから、お粂はまた静かに奥へ戻って来て、そこに、うッ伏していた金吾のからだを、次の座敷へ抱き入れました。