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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「なんにも出ないな」と、ホッと息をつく。

「まだまだ、こんな事じゃ分らない」

「そうとも、まだ分るもんか」

安蔵も鍬を休めません。

で、丁二郎もつりこまれて、また必死に鍬を持つ。

「信念をもって掘れ。信念をもって掘れ」

「そうだ、これもひとつの信仰だ」

「きっと夜光の短刀が出ると!」

「ヨハン様が仰っしゃった。――鶏血草のあるところ、必ず夜光の短刀がある場所だと。――根気だ根気だ、根気のつづくかぎり掘れ。いつも山の会堂で、ヨハン様が読んで聞かせる羅馬王庁の文をくり返しながら掘ろうじゃないか――」

1 日本にて客死せる王族ピオ、かれの最後の地は関東江戸市に近き僻地なるべし。

2 ピオは世襲の夜光珠の短刀をもてり。

3 ピオは日本政府の追捕をおそれて人跡なきところに餓死せしならんか。

4 ピオは自然をこのめり。生前バチカノの草原の風趣を愛せり。あるいは江戸市西北の未開の曠野にかくれて天寿を全うせしか?

5 またピオは花をこのみ、ことに鶏血草の深紅を熱愛する癖あり。かれが日本渡航の理想は、バチカノの野に似たる平和の自然に、鶏血草を移植して学林の庭とし、日本における聖カトリック羅馬教の教会を建設するにありき。