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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

例えば、流行歌手の望月三郎がそれだ。

彼は京極の小屋へ明日から出演するため、今朝の汽車で東京から着くと、宿の番頭からこの店のことをきいて、早速やって来たのである。来てみると、なるほど芸者が三人はいっていた。

望月はしるこをすすりながら、芸者の顔を一つ一つ検討してみたが、どれもこれも大した顔でもなく、色気もなさそうだと判断を下すと、がっかりしてしまった。

それに、ますます彼を失望させたのは、芸者たちが全然彼に注目しないことだ。

「ちょっと、あの男はん、望月三郎え」

と言って、うっとり自分を見つめてくれるものと、彼は確信していた。

ところが、彼女らは、南座の芝居や、松竹座のチャップリンの映画や、接吻が出て来るという日本映画の噂ばかしして、明日から京極の小屋に出る望月のことは、口の端にも乗せず、おまけに見向きもしない。

自分の人気と美貌にうぬぼれに近いくらい自信を持っていた彼は、すっかり自尊心を傷つけられて、

「君……」

と、ボーイを呼んだ。勘定を払って出ようとしたのだ。

その時、一人の芸者が暖簾をくぐって、

「今日は……」

と、はいって来た。ちらと望月を見た眼が艶かしい。