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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「――何が悲しいんだ……?」

「…………」

鈴子は鶴雄の胸に頭を埋めて、ただ泣くばかしであった。

「泣いちゃ判らんよ」

鶴雄は乾いた声を不安そうに出しながら、

「――二階のお客さんに泣かされたのか」

鈴子の顔を覗き込むと、

「ううん」

と、可愛いい首を振って。

鶴雄はほっと安堵して、

「じゃ、どうしたんだ……?」

「君勇姐さんが……」

言いかけて、鈴子はまた子供のように泣き出した。

「君勇姐さんが……どうしたんだ……?」

「君勇姐さんが叱らはったんどす」

「なぜ……?」

「なんぜや知りまへんのどすけど、出て行けお言いやして、撲らはったんどっせ」

「撲った……?」

鶴雄はわけが判らなかった。だいいち、君勇がなぜ小郷の部屋へはいって行ったのか、それがうなずけなかった。

「――撲られて、出て来たのか」

「うん」

と、無邪気にうなずいて、

「――あて、もう二階イ行くのんいやどす。かんにんどす」

鈴子はまた泣き出した。

「行かんでもいい。はよう屋形へ帰れ」

「帰っても大事おへんか」

「構わん、おれが責任もつ」

そう言うと、鈴子はふと鶴雄の胸から顔をはなして、ほのぼのと嬉しそうな表情になった。