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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「これだから、小田策は軽薄だと言われるのだ。もっとも、自分から軽薄だと自称してるのだから、世話はないや」

と、ひそかに呟いた。

弓子は耳の附根まで、いや、眼の中まで赧くなりながら、

「まあ」

と、暫らく口も利けなかったが、やがて

「――じゃ、あたしが掏摸だってこともご存知ですの」

「知ってます」

簡単に小田は言って、

「――いけませんか」

と、煙草に火をつけた。

「構いませんわ」

と、弓子もすかさず言った。

「それに、あたし、今日は掏摸として参ったのです」

「えッ……?」

と鶴雄の方が驚いて、思わず弓子の顔を見たが、小田は、

「ほう……?」

と、落ちついていた。

この落ちつきのない――三十四歳にもなりながら、ちょっと見たところ二十代に見えるくらい、貫録というものがまるっきりない小田だったが、こんなことになると、鉛の置物のように落着きはらっているのは、おかしかった。

「実は……」

と、弓子はきり出した。

「――あたくし、先生にお返しするものを持って参りましたの」

すると、小田は、

「先生は余計だが、しかし、お返しするものを持って来たというのは、もっと余計だな。僕はあんたに返して貰うものなんかないよ」