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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

事業と酒と女――これが小郷の生活の全部だった。

女の機嫌を取るために、映画館へ女を誘うというような、そんな青ッちょろい人間ではなかったのだ。

「金さえ出せば女はものになるのだ」

小郷虎吉という名前さえ出せばいいのだ――と、そう思っていたからだ。

そんな彼が、嫉妬からとはいいながら、映画館の暗がりの中で、ぽかんと坐っていなければならないとは……?

しかし、映画は案外早く終った。

休憩があり、やがてアトラクションの幕が上った。

まず、バンドが一曲を奏した。

それがすむと、純白の背広の胸に、赤いバラの造花をつけた望月三郎がほのかに薄化粧をしてバンドの前に現れた。

一斉に拍手が起った。

やがて、望月は得意の流行歌をうたい出した。

美貌と美声――若い女の子はメロディの甘さにしびれながら、一層望月の魅力に夢中にさせられていた。

小郷はそれを見るのがたまらなかった。おまけに、小郷を一層たまらなくさせたのは、ふと隣の席を見ると、そこには望月の歌にひきつけられている君勇の表情があったことだ。

君勇としては、しかし、ひきつけられているわけではなかった。

昨日べにやからつけて来たいやらしい男だと、その時のことを想い出しながら、ふっとおかしさがこみ上げていたのだ。