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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「――君勇の旦那といっても、元の旦那ですよ」

「元の旦那……? そいつは知りませんね」

「三好という男なんです」

「ほう……」

三好という君勇の元の旦那のことは小田は少しも知らなかった。

(おれの知らないうちに、おれの知らない人物が事件を起していたのか)

小郷の事件はむろん、小田の知らないうちに起った事件だったが、しかし、小郷が殺されることは、小田の予感の中にあった。だから満更寝耳に水の事件でもなかった。

しかし、三好という未知の犯人の登場は、実在の事件を取り扱って一つの小説を組み立てようとしている小田の自信をくつがえしてしまった。

小田は狼狽した。

「現実というものは、それに挑み掛ろうとする作者に、どんな不意打ちのいたずらをするか判ったものじゃない」

と、現実を甘く見ていたこの自信たっぷりな小説家は、はっと水を浴びせかけられた気持だったのだ。

が、同時に小田の職業意識ははや強い好奇心の食指を動かせた。

「三好ってどんな男ですか。なぜ小郷を殺したのですか。なぜ、三好だということが判ったんですか」

小田は畳み掛けるようにきいた。

十

それから半時間ののち――。

小田は司法主任に会うために、河原町通りを歩いていると、若い美貌の青年に会うた。