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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「望月さん……? 暫らく。あたし判る……? ひどいわね、どうして知らせてくれなかったの。京極であなたの名前みて、来てらっしゃること判ったのよ。――今、お暇でしょう……? すぐ宿へ伺うわ。今三条、五分で行けるわ――じゃあとで……。え……? なに……? 莫迦ね。うふふ……」

女は笑いながら、電話を切った。

鶴雄は「アメリカとは何ぞや」を持ったままカウンターの方へ寄って行った。

「この本あしたまで残して置いてくれませんか。今、金を持ってないんで……。あした、取りに来ますから」

売り切れないうちに、予約して置こうと思ったのだ。

「お名前は……?」

「梶です」

そう答えた時、女はリゴーの香水の匂いを漂わせて寄って来た。そして、カウンターへ十円紙幣を置くと、

「どうもありがとう」

と、出て行こうとした。

「あのウ、おつりが……」

「あら、いいのよ」

女はちらと鶴雄の方を見て、

「――その金で、この方にその本渡してあげて下さいな」

そう言ったかと思うと、ひらりと店を出て行った。

「あ、そりゃ……」

困ると、あとを追いかける余裕もなく、鶴雄は赧くなってぽかんと見送っていた。

「まあ、いいじゃありませんか。