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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「僕をモデルにするからですか」

「うん」

小田策之助はしきりに鼻糞をほじくっていた。

鶴雄は、学校の先輩であるこの若い作家を、これまで尊敬していたけれど、会っていると、復校願を出すと云ってみたり、

「君、恋人あるの」

と、変なことをきいたり、鼻糞をほじったり、軽佻浮薄な男のように感じられてならなかった。

作家というものは、何か取り済ました深刻な感じの人間ばかりだと思いこんでいた鶴雄は、そんな小田を見て、すっかり興冷めしてしまい、尊敬出来ないと思った。

だから、ふと小田をからかってやる気になって、

「モデルがなければ書けないんですか。小説家の武器は想像力にあるんでしょう?」

と、云った。

すると、些か溜飲が下った。さっき「君のことを書いてもいい……?」ときかれて、赧くなったことが、心外になったくらい、いい気味だと思った。

しかし、小田はすこしも狼狽せずに、

「いや、こんどの小説ではね、想像力にあまり頼らずに、一つ実際にあった事件を書こうと思ってるんだ。人物も実在の人間を出すし、事件の背景も、京都の実在の場所をいろいろ使ってみようと思うんだ。例えば、僕が君のところの喫茶店で、こうして話をしているね。