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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
唇をとがらせて器用に煙の輪を飛ばしていると、すっと襖があいた。
女中のお雪がしずかに入って来たのだ。
幹男はちらとお雪の方を見ると、急に眉をひそめた。
お雪は幹男の足元に坐って、じっとうなだれていた。
「…………」
「…………」
暫らく沈黙が続いた。
やがて、幹男はその鉛のような沈黙の雰囲気にたまりかねたように、
「あっちイ行け!」
いらいらした声で言った。
「…………」
しかし、お雪はじっと坐ったまま、動かなかった。
幹男はわざと眼を閉じて、お雪の顔を見まいとしていた。
煙草の灰が落ちようとした。
お雪はしずかに起ち上ると、幹男の枕元へ灰皿を持って行った。
幹男はその灰皿に煙草を捨てると、急にむっくり起ち上って、出て行こうとした。
「坊ちゃま」
お雪は幹男の上衣の端を掴んだ。
「なんや」
幹男はお雪の顔を見た。眼がうるんでいた。
「――泣いてるのンか」
幹男はふといじらしくなって、お雪の肩に手を掛けた。
肩はふるえていた。
幹男はいきなりお雪を抱きしめようとした。
「あッ」
お雪は抱かれながら、しかし顔をそむけて、
「――いや、いや……」
そして、わっと泣き伏した。