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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

いや、日本人全体が不幸になっている。

しかし、それらの不幸な人間よりも、このおれの方が不幸だと、幹男は十七歳の頭で考えていた。

不幸な人間は、誰でも自分が一番不幸だと考えるものだが、幹男もまたそうだった。

しかし、どんな風に不幸なのかは、はっきり判らない。

「おれは学校を追い出されるだろう。もう憧れの三高にはいれない」

「もうこの家に居れない」

「友達がこのことをきいたら、何と思うだろう」

そんな風なことを漠然と考えていた。

友達の顔がいくつも幹男の頭に浮んだ。

ふと、木村という友達のことを想い出すと、幹男は急にいきいきとした眼になった。木村の父親は産婦人科医だった筈だ。

「そうだ!」

と、呟くと幹男はいきなりお雪に言った。

「お雪、おなかの子をおろしてしもたらどないや。おれ友達の親父に頼んだる」

「え……?」

お雪はびっくりして幹男の顔を見た。

「――いやどす、いやどす……そんなおそろしいこといやどす!」

「頼むからおろしてくれ」

「いやどす、いやどす!」

お雪は泣き出した。

きつくいやだと言われると、もう幹男は気の弱い少年だった。

ただぽかんとして、泣き出しているお雪の背中をながめていた。