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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
と、弓子はうなずいて
「――女中さんのお停めになるのもきかずに、勝手に上り込んじゃって、ごめんなさい。婦人記者って随分あつかましいと、お思いでしょうが、でも、ぜひこちらのご主人にお眼に掛らねばならぬ急用がありましたので……」
べらべら喋りながら、腹の中では舌を出していた。
「小郷は只今、留守なんですけど、どんな御用件でしょう……?」
宮子は弓子を本当の婦人記者だと思い込んでしまったようだった。
「ここでは申し上げにくいんですが……」
弓子はわざとあたりを見廻しながら、急に声をひそめて、
「――実はお宅のことで、新聞社へ投書が参っておるのです」
と、言った。
声をひそめたために、一層効果があったのか、宮子の顔がさっと曇った。
「そうですか。わざわざどうも……。さアどうぞ」
宮子は打って変ったように鄭重になって、弓子を茶室の方へ案内した。鶴雄のいる応接室は避けた方がいいと思ったのだろう。
数奇を凝らした茶室であった。が、弓子の眼には、ただ虚栄と成金趣味の茶室としか見えなかった。
「この部屋一つ解放しても、何人かの罹災者が救われるのに……」
そう思うと、塵一つ落ちていないその清浄な茶室が、急にけがらわしいものに見えて仕方がなかった。