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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

鰐が一匹おったんや……」

と、話し出した。

島野二三夫は林檎の唄がすんでから、文若を相手に、ケッセルの「昼顔」という小説の話をしていたが、途中で話を打ち切ると、君勇をつかまえて、

「君、一緒に歌うたおうか」

「へえ、歌いまひょ」

「何うたおう。紅燃ゆる知ってるか」

「へえ」

君勇はふと赧くなった。

小田はすかさず言った。

「おい、島野、なぜこのジンゲル(芸者)が赧くなったか知ってるか」

「おれに気があるからだろう……?」

「莫迦をいえ! 紅燃ゆるが君勇女史の頬を紅燃ゆるにしたんだよ」

呆れるくらい、下手な洒落を言った。

「何どんネ……?」

君勇はまた赧くなっていた。

「三高がなつかしいってことよ」

小田ははすっぱな東京弁を使った。

君勇は、

「あら!」

と、眼をみはった。

そこへ、女中がはいって来て、

「君勇さん、ちょっと……」

君勇は階下へ降りて行った。

「何どす……? 姐さん……?」

「お貰いどんネ」

「どこから……?」

「桔梗家はんどす。お受けやすか」

桔梗家ときいて、君勇は思わずにこりとした。

「桔梗家へ行けば、鶴雄さんに会える……」

君勇は匂うばかりにはにかみながら、