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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「あ、こいつだな」

と、判った。

途端に、弓子の眼はギラギラと燃えた。

「こいつが姉さんをひどい眼に合わせた男なのか」

そう思うと、弓子はみるみる顔色が青ざめて行く自分を感じたが出来るだけ平静を装って、

「はじめまして。京洛日報の相馬弓子です」

と、早口に言った、

「名刺をくれ」

と、言われれば、

「入社した許りで、注文した名刺が間に合わないんですの」

とごまかすつもりだった。

しかし、小郷はさすがにそんな野暮なことは言わなかった。

ただ弓子のはっとするような澄み切った美しさに、舌を巻いていた。

「婦人記者だと宮子が言いよった時、何だか美人のような気がしたが、これほどのシャンとは思わなかった」

と、小郷はだらしなく呟きながら、

「さア、どうぞ、敷き給え。ビールはどうじゃ。酒の方がいいかね」

「あたし、いただけませんの」

「じゃ、料理でも……」

手を鳴らそうとすると、君勇は、

「あてが言うて来ます」

と、ふらふらと出て行った。

階下へ行けば、鶴雄の顔が見られるのだった。

「今料理を言ったから、まアゆっくり遊んで行ったらいいだろう。――こういう情緒も一度味っとくがいい」