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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「ど、どこへ行くんですか親分」
「わからねエのか」
「だって、あんまり不意じゃありませんか」
「まあいい、あとを閉めておけよ」
「帰らねえンですか、今夜は」
「あさッて市で会うだろう」
もうその影は、紺屋の空地を斜に抜け、後ろ姿を怪魚と見せて、夜干しの布の浪をくぐッて行く。
曲がりくねッた露地の溝板をふみ出すと、急に明るい大通りがあらわれる。文字どおりな浅草の宵、目に痛い繁昌ぶりです。夜霧と明りの滲み合っているところに、観音堂の法城が一まつの薄墨をはいているほかはすべてこれ、目まぐるしい交響とうごきでありました。
その中に、かれの目は鋭く何かを求めている。いうまでもありますまい、背の高い紫の頭巾。
四ツ目屋の奥で、およそは観察していたはず、あてなき探し方ではありません。糸をたぐッて行くように、ここ、あすこ、思う所の横丁や店をのぞいてあるくうちに、チラと、目の中に飛びこんできたのがあの紫です。
三味線屋に腰かけて、しきりと何か出させている。
まぎれもなく、出所のいぶかしい伊太利珊瑚を、四ツ目屋へ売りにきた頭巾の娘。
そこで、紫たんざおの値をきいて、欲しそうになでてはいたが、それは買わないで、買ったのは蒔絵の爪箱と、糸を七かけ。