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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

畳の上にチカッと光った小判を見て、番頭が手をもむと、こまかいのはありませんという。で何かまた、いらない物まで買い足して、そこを出るとすぐにまた、半襟屋へ入って行く。

呉服物を見ては、あれ、これ、とまるで夢中になって選りわけながら、大まかに欲しいものをズバズバと切らせている様子。のれんを分けて出て来た時に見れば、それが、かなりな風呂敷包となって、左の手に抱えられているのでした。

でも、なお買物に飽かぬ顔つきが、両側の明るい店舗を軒ごとに眺めつ迷いつしているのは、いかに物欲の強い年ごろの女とはいえ、浅ましい沙汰の挙動です。いや、あるいはそれ程にこの娘が、物質に渇していたのかも知れないが……。

かくて、珊瑚を売った百両の小判のカケが、紅となり、おしろいとなり、袋物と化けて、病み上がりの胃袋みたいな風呂敷を満たしてゆくのはいいが、そのうしろから、見て歩いている編笠には、自分の金を、分別のない小娘に、パッパとつかい散らされているような気がしないでしょうか。

四ツ目屋という紺のれんは、元より世間に日蔭を作る仲間の巣。新助でさえ不平なのに、無論、しら浪根性に劣りのないこの男が、世の中の物質に代価を見ない盗賊という本業を裏切って、すなおに、あの珊瑚を買うべき理由がないのですから。