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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
――と共に、飛鳥のように外へ走ろうとするお蝶を後ろに制して、
「騒ぐな。捕手か」
「え、そんなあんばいです。最前からこの辺へ、うさん臭い男がウロついていましたので、嬶あにも油断をするなと言っていますと、案の定、向うの紙漉場へ人数が集まって、いつのまにか八方を塞いでしまった様子です。もう逃げ口は、大川よりほかにはございません」
「よし、よし。それくらいの事はかねての覚悟だ」
「だが私はどうしたらいいのかしら? ……」
「案じる事はない。率八の言うとおり、八方は捕手の遠巻き、滅多に駈け出しては、かえって危なかろう」
「そうです、愚図愚図していると一大事ですよ。……さ親分、お蝶さんも、早くここを」
「とにかく、おれと一緒に舟へ乗るさ」
「ああ、それなら私も気が強いわ」
男の腕にすがりついて、お蝶が外の夕暗をのぞくと共に率八は、大川の洲へ走り出して、猪牙舟の小べりに寝ている櫓柄を取り上げています。
今だ! と直覚したので、男女がそれへ目がけて疾風のように駆け出した時は、すでにその逃げ口にも、危機のワナが懸っていました。――走り出して七、八間、あッと筒抜けの声が夕暗を流れたかと思うと、男女の姿は、地に張られていた一本の繩に諸足を拯われて、