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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
恋と慾を両天秤にかけて、彼女の愛と短刀を併せて手にいれようとした日本左衛門の計画は、そッくりそのまま、反対に、お蝶の方から致された形になってしまいました。
「おのれ、どうしてやろうか」
怺えんとしても彼の四肢は、髪の根のしまるような忿怒のために、身ぶるいを刻んで手の痛くなるまで鉄格子の下に握りしめている。
石室の奥では、ツギ合せた樟板に依って、何か明確な地点を見出したものらしく、
「これだ。オオここだ……お姫様、この薬草園の東の方に、妙な印があると思いましたが、今、一方の板をみると、その印が解いてある」
「ではやっぱり、あの薬草の中には違いなかったのねえ」
「そうです。ま、お待ちなさい……。ウム、判りました。一方の符号と一方の解を考え合せてみますと、つまり、薬草園のうちの北の境から九十六歩、東の崖から四十四歩、その三角線の中心にあたる所に、一基の石を乗せた古塚がある」
「塚? ……あったかしら? ……そんなものが」
「塚は土饅頭に堆れ上がって、四方に大きな榛の木がそびえ、秋となると、鶏血草が血を流したように咲き出るので、薬園奉行や黒鍬の小者は、そこを、江戸城の血塚とよんで、足ぶみ禁断の地としてあるという」