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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

だけれど私は行かなければならない……もし、三日のうちに、ここへ帰って来なかったら江戸城の土になったものと思っておくれ」

「みんな!」

突然、梅市が「御用」と書いてある提灯の灯を消すと、一同もそれに倣って、ふッ、ふッ、と一瞬のまに残らず消して、彼の次のことばを森として待ちすくみます。

「――お姫様のために、お祈祷をささげてくれ、これが、最後のお別れになるかも知れない。イヤ、そんなことのないように、夜光の短刀を抱いて、ふたたびここへ帰って来るお姿が見られるように、みんなして、お祈祷をあげようぜ」

ゾロゾロとひざまずくと、一団の人影が、やや暫く、声なく、身うごきなく、じっと、首を垂れている。

――その黙祷をうけながらお蝶が一歩うしろへ退って、石神堂の扉をギイと押したかと思いますと、掻き消すごとく、姿を堂の中へ隠しました。

カランと堂の中でひびいたのは、木桟の繩梯子でも空洞へ下ろしたような木の音です。

醒めたる如く、それに首を上げた切支丹族の者たちは、火のない御用提灯をふところに畳んで何処ともなく立ち去りました。

後は、ごうッ――と、空を翔ける春の木がらし。