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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
御府外雑司ヶ谷の薬草園、芝の魚籃坂における薬草園、小石川養生所の薬草園、こう三ヵ所が幕府経営の城外薬園地でありました。
中で最も古いのは雑司ヶ谷の西お薬園で、そこの奉行をかねながら、閑役の余暇に本草の研究に没頭しているのは小野暁台という篤学な人です。
暁台、今も屋敷の書斎にはいって、何か虫蝕本をくりひろげていると、
「桃園の筑後守様がお見えでございますが」
と、門人の取次でした。
中野桃園の人といえば新井白石です。近ごろ役を退いたとは聞いたが、あの権勢家が何しにこの薬園などへ訪れて来たのかといぶかしく思いながら、取敢えず立ってゆくと、
「おお、暁台殿、御無事か」
筑後は門外に駕を待たせて、もう式台へ来ております。
「おめずらしい事ではある。さあ、こちらへ」
自身案内に立って書院へ通る。
久濶のあいさつが終って、世情のうわさから、新将軍吉宗の人となり、或いは、政治のこと、鳩巣、徂徠学派の悪口など、それからそれへ話が熟したころに至って、
「時に、今日伺ったのは」
と初めて要件をもちだしました。
「なんぞ折入ったことでも? ……」と暁台も膝を改めます。
「ほかでもないが、近ごろ閑を得て、古書類を整理しておるうちに、御城内の人参畑にある血塚について、妙な記録を見出したのでござるが、それについて、二、三疑問の点を御垂示願い