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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

たいと存じて、参ったわけでござるが」

「人参畑の薬園は、手前の祖父小野蘭岳のひらきましたもの故、聞き覚えもないではござりませぬ」

「そこの人参畑の血塚は、一体、徳川御開府以前のものであろうか、以後であろうか」

「祖父の蘭岳が、お上の命をうけて、人参を移植いたした当時に、慶長甲寅という年号を刻した石がその塚より出たと申しておりました。いつかそれも埋没して近頃では見当りませぬ」

「慶長の甲寅は十八年、大坂攻めを遊ばした冬の陣の当年で、神君の御発令により、大久保忠隣が京都の耶蘇教会堂を取り毀し、諸国に邪教禁止のおふれを布かれてから三、四年後にあたる」

「塚もその当時に建てたものではあるまいかと心得ます」

「して、以来あの塚について、何か変った話は残っておるまいか」

「と申せばあの塚の附近で、よく下役の耕作人が怪我をいたす事で、それと、秋になると、塚の周りに限って、異な植物が芽を出します。またその草は蛮草であろうという想像のみで、祖父も父も名なし草としておりました」

「ほう?」

「しかるに、数年前に、手前が長崎表へ公用で参りましたせつ、その捺草を所持いたして同地の蘭人に示して糺しましたところ、それは南蛮の地では、鶏血草とよぶ植物であると申すこと。