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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
……がしかしどうして左様な蛮地の野草が江戸城の奥庭などに咲き出るものか、その儀ばかりは、この暁台にも、とんと想像が参りません」
「なるほど、それで自分にもおよそながら綴りがついた。まだお上へ復命せぬうちは、ちと他言を憚るが、いずれ其許の御不審については、後日白石よりお話いたすこともござろう」
彼は要件をすまして中野の隠邸へ帰りました、
当代の碩学を以て任じ、西洋紀聞の著者でもある彼は、吉宗から依頼された例の調べ事にかかって自身でも多少の興味をおぼえないではありません。
数日前から、諸書の記述や諸方の考証を蒐めた白石は、いよいよ案成って、ここに吉宗へ復命の筆をとり始めます。
――近ごろ、大奥にかしましい妖説は是か非か、江城の深秘、人参畑の血塚の真相は何でありましょうか。
蒐め得た考証を材料にして、彼の該博なあたまがその真をどこまで突き究めたかは、最も興味ある問題で、将軍家でも首を長くして待ちあぐねているところであります。
果たして、白石の探究によっても、そこがピオの最後の地と見極めがつけば、ピオの通信が本国へ絶えた紀元千六百〇三年以来、ローマの人々が千里を遠しとせず探しぬいて来た王家世襲の宝刀、夜光の剣も、意外なところから、この世の朝光を浴びることになるかも知れません。