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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「若様――こちらへ」

と、釘勘はまた先に立つ。

西国三十三ヵ所を模した札堂――五番堂のまわりを、グルリと廻って、

「ここじゃねえな」

ひとり語をいいながら六番堂、十二番、順もなく札所歩きを、初めたので、

「釘勘」

万太郎は不審そうに、

「最前から何を眺めて歩いておるのじゃ」

「千社札です」

「千社札? ……腑に落ちぬことを申す。そちの組下の伝吉をたずねるはずではないか」

「その伝吉の姿を探しているより、この方が早くぶつかるかも知れませんので」

そういって、七番堂の廻廊へズカズカと登って行く。

釘勘はまたそこでも、柱、棟木、廂の裏などに、ベタベタ貼りちらしてある千社札を、早い眼で読み廻していましたが、

「ウム、ここだ。若様ここで伝吉の来るのをしばらく待ってみましょう」

「こんな所にいるのでは、なお見つかるまい」

「大丈夫、印があります」

「印が? ……」と万太郎は、廻廊の千本廂をふり仰ぎましたが、種々雑多な千社札の数あるうち、どれが目明し仲間の暗合符だかそれらしいのは一向に見出せない。

ある一ツの目的で、四方に散らかッている手先の者が、社寺の千社札を利用して、時には探索者の所在を暗示し、時には会合の場所を示し、ある時は行先を残す符牒とするなどは、素人が聞いても、甚だうま味のあることだと、万太郎はすこぶる興味をもちましたので、