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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
その下へ向って真ッ逆さまに、サッと投げられた龕燈の明りを、三ツの首が、ためつすがめつして、
「おい! 生きているのか」
と突然、大きな声で呼びかけて行く。
声はガア――ンと穴室にひびいて、不気味にいつまでも消えませんでしたが、それに澄ます神経の下では何の沙汰もない。
「はて?」
ひとりが小首を傾げると、
「返辞がないじゃないか」
「まいッてしまったかな?」
「いや、死ぬはずはない。底の土はやわらかいし、下には水も少したまっているから、一時気絶したにしろ、もう息を吹ッ返していなけりゃならない」
「そういえば今まで、各所の石神堂にある銭瓶の穴で死んだものは一人もないな」
「そうとも、死んでしまわれたのじゃ、こちら様の御用に立たない事になる。どれ、脅えているのかも知れないから、一ツ、地獄に仏のお救いと有難がらせてやろう」
小声にささやいていたのを、また怒鳴るような大声に変えて、
「これこれ、下に落ちている旅の者、息はないのか! 息は!」
「オオ、うなっている」
「しっ……」と手で制して、
「これ、どうした」
上から射す明りを見上げて、ウームと下で呻いていたのは馬春堂。――打ち所のいい悪いなどはとにかく、何しろ、夜の明ける前から、ふッと正気づいて、さんざんもがき疲れた揚句、わずかに、したたる水を吸って、飢えと恐怖にふるえていました