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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

。

それに、肩と頭部がひどく痛んで、ものの思判力がみだれている。

上に人影が見えるのですから、飛びつくように、助けを呼びそうなものですが、ぽかんと、しばらくは無言のまま、

「ウムム……」と、ただ太い息でうめいていますから、

「おい、旅の者――」と、上の三人は、再度口をそろえて、

「上がりたくないのか」

一本の繩を振りうごかし、目に見えている鯉が釣れないように焦れました。

その垂れている繩の先に、冷やりと顔をなでられたので馬春堂は、ハッと、失いかけていた生命の弾撥をよみがえらせて、

「おーっ、たッ、たッ、助けてくれ――」

いきなり、ムシャクシャに繩へかじりついてきました。

しかし、上の三人は、そう引ッ懸って来た魚をすぐに釣り上げようとはしないで、

「おお気がついたか。あせらんでもよい、あせるなあせるな、元より此方たちはお前を救いにまいったのだから、もう心配することはないぞ」

「あっ、ありがとうございます」

馬春堂の声は泣いているようです。もし、ここに道中師の伊兵衛が居たならば、また、

(悪党のくせにしやがって、しッかりしろい)

とか何とか、毒づいたかも知れませんが、こんな場合はかえって、叱咤してやるのが当人のためで、狂喜させる甘い言葉はいよいよ悩乱させるばかりでしょう。