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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

上では、そんな思慮もない様子で、

「おい、ところでな、旅の者。上がるついでだ。今、上から袋をほうるから、その底にたまっている銭を、はいるだけ詰めてくれ。――なに、石神様の賽銭さ、もうここのは三、四年揚げたことがないから、かなり土にも埋まっているだろうが、手さぐりで、およそ詰めてくれればよい。――そして、その次に、貴様を上へ揚げてつかわすぞ」

いわるるまま馬春堂は、穴の底で、手に触れたそれらしい物を土と共にかき集めて、上から垂れている繩の先に結ぶ。

この辺で土着の人が、石神堂の床下を、銭瓶の穴とよぶ名にたがわず、多年底なしの賽銭箱から落ちて、雨露のしずくのようにたまっていた金。

「くくりつけたか、しっかりと!」

「はい」

馬春堂は神妙です。いや、半ば夢中なのかも知れません。

「よし!」

と、上では三名、それに応じてグイグイと手繰り上げていったかと思うと、何やらまた小声でささやき合った後に、

「これ旅の者、もうしばらくそこで待っておれよ」

こういうと、一人だけをそこに残して、あとの二人は、ズシリと重いその袋をさげて、前の観音開きから堂の外へ飛び出しました。

さらに奇怪なのは、それから石神堂の前へ、土着の者を呼び寄せて言い渡した、かれの行動と言辞であります。