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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
「この賽銭、何程あるか分らぬが、高麗村の御隠家様の思召しである、其方たちにこのまま渡し置くによって、一部は土地の貧者や病人へ、一部は関口の橋修繕に、一部は石神様鎮護料としてよろしいように配分いたせ。なおまた、不心得なやつが、賽銭箱を破ろうとして銭瓶の穴に異状のあった節は、すぐに高麗村まで急報いたしてくれるように。さすれば今日の通り、神罰の使いとして吾々が即刻成敗に向うであろうし、その時ごとに、たまっておる神財は、皆この土地のものに配分してつかわす故、くれぐれ石神様をおろそかにせず、また高麗村御隠家様の御恩は忘れてはなるまいぞ」
いかにも厳然とした口調でいうと、質朴な百姓どもは、神財配分の恩にひれふして、きっと誓約にたがわぬことを口々に答えるのでした。
もっとも、銭瓶の穴に人の落ちた時は、必ず高麗村から罰使が駆けつけて来て、その時ごとに、神財を分けてくれることは、かれらが祖先からの例で、今に始まった事ではありませんが、まず滅多にないことで、四、五年に一度あるかなしです。
それ故、土俗の者が、高麗村の御隠家様というものをおそれ敬うことは想像以上で、しかもその御隠家とやらは、武蔵の国に散在する幾多の石神の司祭者であるといいますから、馬春堂の落ちた銭瓶の穴――また樵夫の如き風姿をした武士が罰使として野馬を飛ばし