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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

てくることも、決してここばかりの事件ではないと見えます。

さて、おごそかに神財配分の例事をすまして、一同を退散させると、かれらはまた、前の所へ戻って来て、馬春堂を銭瓶の穴から救いあげました。

――もうその時刻には、日もとっぷりと暮れていて、ゆうべよりも温いそよ風に、星の色もにぶいおぼろ夜ですが、ここに、わだかまる二本松の陰だけは真ッ暗です。

穴の底にいた時は、ただ助かりたい一念であった馬春堂も、地上に足を着けると共に、にわかに、風俗不思議な三名の侍が怖ろしくなって、礼もそこそこ立ち去ろうとすると、

「これ、どこへ参る?」

と見とがめて、馬の鐙をすえ直していた一人が、声に刺をもって、

「すでに命のないところを救われておきながら、一応司祭者たる御隠家様にお礼も申さず立ち帰るやつがあるか、たわけ者めッ」

と叱りつけて、はッたと睨みつける。

その眼光にちぢみ上がッていると、うしろから他の侍が馬春堂の背中を突いて、

「御隠家様のお屋敷へ案内してつかわす故、それへ乗れ」

と、駒の手綱を寄せましたが、それがまた、いかにも気の荒そうな野馬です。

「と、とんでもない事で」