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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「? ……」

「? ……」

すくみ合って、双方、互いのにおいをかぎ合いました。

こういううまいかくれ場所に道中師の伊兵衛様が、地獄耳をそばだてていることは、相手方の日本左衛門でも、夢、気がつくまいと内心得意でありましたところが、あにはからんや、この縁の下には自分のほかにも、ヘンな黒衣の人間がジッと竦んでおりましたのに、

「おっ……」

と、しりごみをした伊兵衛。

「こいつはいけねえ」と、あと下がりに身を退きましたが、先に光っている目玉は、足元をつけ込んで来る猫のように、伊兵衛が一尺さがれば一尺、三尺さがればまた三尺、

(この野郎、うさんくさい)

と、向うでもいいたそうに、四つンばいに這って追い廻して来ますから、伊兵衛も業をにやして、チッと舌打ちを鳴らしました。

「甘く見てやがるな、三下め」

そこで今度は攻勢に出て、こッちから反対に前へ出てゆくと、向うも少し気味がわるくなったとみえ、ジリジリあとへもどりましたが、突然、ピカッとしたものを真ッ直に向けてきました。

抜いたと知りましたから道中師の伊兵衛も、からかい半分ではなくなりました。いくら、足掻のわるい縁の下でも、あぶないものを持って暗やみを無茶にかき廻されたひには、たまッたものではありませんから、