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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
かくても、天草の宗教戦前後までは、幾多勇敢な宣教師たちが、海を越え、危険をおかして、日本へ乗渡ってきつつありましたが、特に、羅馬王庁から派遣されてきたもののうちには、夜光の短刀をさがし出すべく、秘命をおびて来たものがどれほどあったか知れないという。
しかも、そのありかを知るに至難なことは、かの貴族の古い通信によって見て、その人の最期の地が、今は、将軍家の膝元となっている関東江戸附近ということが、ほぼ限定的に分っているのに、長崎天草までは乗渡って来た羅馬の人も、よくここまで足をふみ得たものが稀であります。
布教にくるばてれんも、それをたずねて日本へ渡った者も、幕府の宗門役人からみれば、みな同色な異国人、見つけ次第に十字架を背負わせて、仮借なきサビヤリを加えた数は、かの切支丹鮮血遺書やその他の殉教史が示すとおりであります。
徳川万太郎が名古屋城で手に入れた「御刑罰ばてれん口書」。あれなども羅馬の使徒が、江戸表へこころざして来る途中、運つたなく尾張の城下で捕りおさえられたものの口書でありましょう。
思えば、夜光の短刀を求めにくる、羅馬の人々の屈せぬ根気は敬服にあたいしますが、それに払われた犠牲もまた少ないものではありませぬ。